近年のピクサー映画の続編傾向と結末の“苦み”について

私のオールタイムベスト10のひとつにピクサー映画の『ウォーリー(2008)』があります。この作品は、環境問題提起のSF作品であると同時に、最上級の恋愛映画でもあります。

恋愛映画というジャンル自体、実写で掃いて捨てるほど多くの作品が毎年作られており、競争の激しい一分野です。その中にあって、CGアニメーションの世界で恋愛を描き、大いなる成功を収めることが出来たのは、ピクサーの向上し続ける技術力と何よりプロットの確かさをなくしては語れません。

『ウォーリー』に限らずですが、全盛期のピクサーは本当に凄かった。

トイストーリー』『モンスターズ・インク』『ファインディング・ニモ』『カーズ』『カールじいさんの空飛ぶ家』など。

なにを作っても絶対的に品質保証がされており、絢爛とも言えるこれらの傑作の数々は、今後数十年間の映画史に確実に名を刻むことは間違いありません。

しかしながら、何事も栄耀栄華を極めても、いつかは下り坂に差し掛かることは避けられないもの。ピクサーに関しても例外ではなく、大傑作『トイストーリー3』を最後に昏迷期に入ってしまいます。いや、「昏迷」なんて言葉を使うと駄作を量産するようになった、かに思うかもしれませんが、そうではない。隆盛を誇った上記の作品群に比べれば、数段見劣りすると言うだけの話であって、ピクサー外部の映画を比較対象とするならば、よっぽど優れています。

その断りを入れたうえで語ろうと思いますが、ピクサー斜陽化の一因に続編作の連発傾向が挙げられます。二匹目のドジョウ戦略ともいえるこの傾向は、本来アニメーション作品を作る上での商業的メリットを加味すれば当然の発想と言えます。

前述のように、私はピクサーの最大の魅力はプロット面にあると思ってます。しかし、それは所謂“映画好き”の視点での評価であり、本来アニメの観客として想定されている子供たちからすれば、キャラクターの魅力が最も関心の強いポイントであることは相違ありません。

続編傾向の利点として、過去の傑作で躍動していた人気キャラクターの復活させ、キャラクター関連グッツで収益を上げようという勘定が入っているのでしょう。これらの事情は企業として当然至極の戦略で、非難する類いのことではありませんが、反面で元になっている作品を延命させざるをえないという弊害も生じてきます。

それでは、ピクサー作品のおける具体的な事例を元に話を進めようと思います。今まで公開された中で、続編として作られたものを列挙すると以下の通り。

トイ・ストーリー2』『トイ・ストーリー3』『カーズ2』『モンスターズ・ユニバーシティ』『ファインディング・ドリー』『カーズ/クロスロード

この中で『トイ・ストーリー3』については、別格としておきたい。というのは、監督をリー・アンクリッチ氏もインタビューで明言していることからもわかるように、『トイ・ストーリー3』は三部作の最終章のジンクスを意識的に打ち破ろうとした試みがあったことが見て取れるからです。結果ブランドでも一、二を争う出来栄えになっているのだから、異論もないかと思います。

では、他の続編に関してはどうかというと、やや腑に落ちない部分があります。まるで喉に突っかかった小骨のような違和感が残るのです。

例えば、『カーズ2』はストーリーの練り込み不足が見逃せない。ピクサーにおける扇の要が最もぐらついた作品で、お世辞にも褒められたものではない。それに取って代わるように組み込まれているのは、行き過ぎた遊び心。日本文化を舞台に、車のキャラクターたちが持つギミックを主眼においており、前作『カーズ』における郷愁溢れる世界観を壊しかねないほどでした。

ファインディング・ドリー』も、タコのハンクというキャラクターが体現されるやりすぎ感が作品のバランスを崩しかけていました。『トイ・ストーリー2』『モンスターズ・ユニバーシティ』は娯楽作としてみれば、、楽しめますが、どうしても続編に付きまとう既視感が視界にちらつく。

ヒットした映画の続編に駄作が多いのはよくあることで、綺麗に完結した物語の末尾に、余計な装飾を加えられ、二番煎じだと辟易することは避け難い現象です。

続編を作るということは、過去の自分を乗り越える力が要求されます。全霊をかけて制作された物の更に上をいくか、別の方向に舵を切って差別化しなければならない。

全体のクオリティで見ると上記の続編たちが、一作目を超えたとは言えません。それでも私が、ピクサーの続編を支持しようと思うのは、結末にある“苦み”がしっかりと継承され続けているからです。

ピクサー作品に通底しているのは、極めて教訓的なメッセージです。

例えば『トイ・ストーリー』では、バズが抱いていたスペースレンジャーであるとの思い込みは、現実に打ち砕かれる。『カールじいさんの空飛ぶ家』では、最愛の妻との夢をかなえるために飛び立ち、妻との思い出を取り戻すという幻想を抱いていたが、結局は叶わない。

要は、自分の置かれている変えがたい状況や現実というのを、突き付けられます。どうにもならないものは、ならないという“苦み”は、大人になると通過儀礼的に誰もが通る道です。それをアニメーション作品に込めている点を称賛したいと思う。ピクサーが子供から大人まで楽しめるに足る秘訣はここに隠されていると考察します。

子供たちはピクサー作品を見ながら育つことで、困難に打ち勝つ強さを獲得し、大人は自身の実情に照らし合わせて感情移入することができるのです。

ピクサー作品の続編では、その教訓的な結末に関しては抜かりがない。

ファインディング・ドリー』では、ドリーの抱える短期記憶障害という足かせは解決しない。『モンスターズ・ユニバーシティ』のサリーとマイクも、試験で不正を働いた廉で退学になっている。

どうにもならない現実や自らの行動の責任に直面しながらも、それを踏まえたうえで、どのように生きていけば良いのかを考えさせられるストーリーになっています。

このようなリアリズムの道程を歩み続けた結果の、純然たる成功例が『カーズ/クロスロード』です。まるで作中で語られる継承の物語とリンクするかの如く、ピクサーが受け継いできた“苦み”を最大限見せつけ、それでも明るい未来を提示してきます。

そして去年頃から、ピクサーの第二の勃興が始まってるようにも思えます。

 

最後に触れておきたいのは、ピクサーが新たな続編作を公開予定であること。

今年(2018年)の6月に『Mrインクレディブル』の続編『インクレディブル・ファミリー』が公開されます。2019年6月には『トイ・ストーリー4』も公開予定でもある。

特に気になったのは、『トイ・ストーリー4』に関して。あれだけ美しい幕引きに蛇足を付け足すことになるのではと考えましたが、どうやら、ラブコメ方向のスピンオフ的な作品のようで安心しました。

これからも、ピクサーの心構えを忘れずに、制作に鋭意してほしいと思います。