『きっと星せいじゃない』原題『The Fault in our star』レビュ― ~途中で終わった物語とは~

 ◆基本情報

・2014年日本公開

・監督 ジョシュ・ブーン ・脚本 スコット・ノイスタッター/マイケル・H・ウェバー

・出演 シェイリーン・ウッドリー アンセン・エルゴート

・配給 20世紀フォックス

 

◆あらすじ

ヘイゼル(シェイリーン・ウッドリー)は末期がんにより、幼少期より自由な生活ができなかった。学校にも通えず、友達もいない日々を過ごしていた彼女だが、グループセラピーに参加した際、骨肉腫を克服した少年ガス(アンセル・エルゴート)と出会う。次第に惹かれ合っていく二人だったが…。

 

◆レビュー

難病物の恋愛映画という、ありふれたジャンルですが、よく作りこまれていました。この作品は人の死、そして死によって取り残される人々の「その後」にフォーカスが当てられています。

〈二人の人物像〉

物語の序盤で語られるのは、ヘイゼルの退屈で孤独な日々です。同じ年頃の子が堪能している青春をほとんど得ることのできない日々。その象徴として毎日同じ本ばかり読んでいることが描かれています。そして、その日々を変えたのがガスと出会いだった。彼から勧められたSFゲームのノベライズ本を読んでいることこそ、彼女が決まりきった日々から抜け出し、違う世界に足を踏み出した変化の象徴となっています。

一方のガスは、一見病気を克服した明るい青年のように見えます。表面上彼は弱みを見せることはほとんどありません。しかし、細かい点に彼の弱さが現れています。グループセラピーで語っていたように彼は「忘却」を恐れていました。人々の記憶に残る人生を送りたいということは、自分の死後のことを想像しての発言です。

また、火のついていない煙草をくわえるのは、命を奪うものへの抵抗の意味があるためです。ガスが飛行機に乗るときに煙草をくわえていて、キャビンアテンダントに注意される場面があります。これは飛行機が墜落するのではという死の恐怖を紛らわしたかったからでしょう。

つまり彼自身、本当は死の恐怖から逃れられていなかったのです。

 

〈結末のない本〉

二人の物語を語るうえで重要なキーアイテムになるのが、ヴァンホーテン(ウィリアム・デフォー)の本です。

劇中でヘイゼルは、結末が描かれず途中で終わってしまったこの本に異様に固執し、その後の登場人物の事を知りたがります。なぜならば、自分自身と同じだからです。つまり、結末のない本に、がんによって若く死んでしまうであろう自分を投影し、重ねていたからにほかなりません。自分の死後家族はどうなってしまうのだろうか?自分の人生に意味はあったのだろうか?その答えを知りたいという願いが、無意識のうちに彼女の行動原理となっていたのです。

実際、本の著者であるヴァンホーテンも娘を白血病で亡くしています。そのため、娘をモデルにしたアンナの物語の続きを書くことができなかった。ヴァンホーテンがヘイゼルと初めて対面したときに侮辱したのは、自分の娘とヘイゼルを重ねたためです。

 

〈トロッコ問題の意味〉

ガスの葬儀の直後、ヴァンホーテンが言いかけたトロッコ問題について触れておきます。

ロッコ問題とは、路線上に止まることの出来ないトロッコがある。このまま進めば路線上の五人が死ぬ。しかし、ある人物が分岐器のすぐ近くにいる。進路を切り替えれば、五人は助かるが、切り替えた先にもう一人の人物がいて、その人物は助からない。という状況を想定しての倫理学の問題です。

この問題で確実に言えるのは、誰かの犠牲によって救われる人間もいるということです。

ヴァンホーテンは「途中で終わってしまった物語=死」によって、救われる何かもあると言いたかったのではないでしょうか?

 

〈二人の答え〉

ヘイゼルが求めていた答えは、ガスによって導かれます。

ガスは元々多くの人間の記憶にとどまることを求めていました。しかし、死に際にヘイゼルたった一人と愛し合ったことこそ意味があったのだと手紙に書いていました。もちろんヘイゼルも同じように感じていたことは明らかです。ガスが死んでも、ヘイゼルには二人の愛し合った記憶は残る。それだけで彼の人生に意味があったものだと言えます。

ヘイゼルが近い将来死を迎えても、ガスと出会えたことこそが意味になりえる。また、彼女の家族の記憶にも、ヘイゼルとの思いで刻まれるだけで意味があります。

ヘイゼルは皮肉にも大切な人の死によって、「途中で終わった物語のその後」つまりは「残された者の物語」を体験することとなりました。この点が上記のトロッコ問題と係っています。

 

冒頭、ヘイゼルの語りにあるように悲しい物語をどうやって語るかは本人次第です。人の死も、自分の死もどう捉えるかによって意味が変わります。

本来悲しい物語を美しく、ときにユーモラスに語った本作は紛れもなく傑作でしょう。

 

◆私的な話

恋愛映画というジャンル自体ちょっと苦手なんですよね。客観視して作品として見る分には大丈夫なんですが、主観的にはあまり入り込めないというか……。まあ、一般的な男の映画好きなんて大概そうですかね。

でもこの作品を見て、そんな偏見を捨てもっと鑑賞していこうと思えました。未開拓のジャンルなので、今後、私の知らない傑作たちと出会えるかもしれません。