「クリード チャンプを継ぐ男」レビュー ~世間の視線と自分自身~

◆基本情報

2015年日本公開

・監督 ライアン・クーグラ ・脚本 ライアン・クーグラ アーロン・コヴィントン

・出演 マイケル・B・ジョーダン シルベスター・スタローン

・配給 ワーナー・ブラザーズ

 

◆あらすじ

伝説のボクシングヘビー級チャンピオン、アポロ・クリードの隠し子であるアドニス・ジョンソン(マイケル・B・ジョーダン)は、大人になり経済的には裕福な生活を送っていた。しかし父親の存在から、彼はボクシングの世界への思いを断ち切れずにいた。アドニスは今の生活を捨て、かつての父の盟友であったロッキー・ヴァルボア(シルベスター・スタローン)にトレーナーになってくれるよう懇願しに行く。

 

◆レビュー

〈「ロッキー」との比較〉

本作は「ロッキー」シリーズの踏襲を一通りしています。鶏を追いかけるシーン、フィラデルフィア美術館の階段、そしてネタバレになりますが、ラストの試合結果などが顕著でしょう。

しかし、このようなオマージュから何歩か踏み込み、試行錯誤したことが、本作の素晴らしさのひとつだと言えます。

例えば、アドニスの生い立ち。幼少期は貧困にあえぎ、義母と暮らす内に裕福な生活を手に入れる。しかしそこから更に、仕事も金も家族も振り払い、過酷なボクサーへの道を目指していく様はある意味「ロッキー」よりもハングリーなのかもしれません。

 

〈時代性〉

スマホクラウドといった単語がポンポン出てくるところも時代背景をしっかりと反映させています。その点のロッキーとアドニスのジェネレーションギャップがギャグとして成立しているのもうまい。あの時のロッキーの反応も妙にキュートに映ります。

また、本作のヒロインにあたるビアンカの扱いに重点が置かれているのも現代的と言えます。

 

〈それぞれの闘い〉

上記のような比較をするだけでも十分面白いのですが、作品単体で見ての完成度とメッセージ性も確かなものになっていると思います。

この作品では人生にもがき、戦い続ける者の姿が克明に描かれています。

主人公のアドニスは自らの生い立ちに苦しみ、答えを見出そうとしています。自分が隠し子であることの負い目がありつつも、同時に偉大なボクサーである父への憧れがあった。彼がYOUTUBEの動画をスクリーンに映し、ロッキー対アポロ戦を見ていた場面。アドニスは見ているだけでは飽き足らず、自分もスクリーンの映像に合わせてパンチを繰り出します。しかし、その時の彼の動きは父アポロの動きにシンクロしているのではなく、明らかにロッキーの動きにシンクロしているのです。偉大だが憎むべき相手でもある父への挑戦と葛藤が見て取れます。

晩年を迎えたロッキーは、病気と老いに立ち向かいます。それは愛する人たちを失ってきた人間の最後の闘いなのでしょう。今まで激闘を繰り広げていたボクサーが、力なくうなだれる様子は、心を締め付けます。リングの上で戦っていた姿がかっこいいのは言わずもがなですが、闘病する姿もそれに匹敵するぐらいかっこいい。アカデミー賞助演男優賞ノミネートも頷けた。

ビアンカもただの恋人という役割ではなく、進行性難聴というハンデを抱えながらも夢を目指す一人の挑戦者なのです。彼女も目の前の困難に立ち向かう人間だからこそ、アドニスと惹かれ合った。この手の映画では恋愛要素が取ってつけたようになりがちですが、ビアンカの存在によって物語に厚みが出ています。

 

〈最強の敵とは〉

それぞれの登場人物が抱えるドラマの答えは、劇中ロッキーのセリフによって語られます。鏡を前にしたアドニスに向かって「これは最強の敵だ」と。

こここそ本作の最大のメッセージだと考えます。

アドニスがクリードの名を隠すのは、出生の秘密を世間や他人から非難されるのを恐れていたからです。だからこそ、ビアンカの出演するライブ会場で、「アポロジュニア」と言ってきた男に殴りかかってしまった。このシーン、柄こそ悪いが相手の男は悪気があったようではない。問題は彼の内面なのです。

そのコンプレックスを解消するきっかけは、上記のシーンの少し後ににあります。暴力沙汰を起こしてロッキーとビアンカと決別した直後、道端で途方にくれていたアドニスに、通りすがりの黒人青年が声をかける。「あんたアポロの息子なんだって?頑張れよ」そう言って、さっさと立ち去ってしまいます。このシーンは、プロット上の起承転結の転に当たる重要な位置にあります。なぜそんな重要なシーンで見ず知らずの人間を登場させたのか?要するに、アド二スが気にしていた世間や他人の視線など、良くも悪くもこの程度のものなのだと端的に表現しているからです。闘うべき相手は、世間からの視線や評価などではなく、自分自身なのだと理解したからこそ、アドニスは再び立ち上がれたのでしょう。

アドニスがアポロの名の入ったトランクスを身に着けて戦ったのは、もはや名前などにこだわっていないため。父の名や周囲など気にせず、自分の為に戦ったアド二スは本当の意味で自分を肯定することができたと言えます。

 

これだけのカタルシスを味わえる映画はそうそうありません。旧作のファンも、一見さんも是非お勧めです。

 

◆私的な話

私的というか、作品の質にも関わってくるところなんですが、アドニスの最後の試合の相手に関して。もう少し体鍛えてからの方がいいのでは?ボクサーというより、中年レスラーの体つきだった……。マイケル・B・ジョーダンの体つきが完璧すぎて、余計にアレな感じになっていると思う。

いや、顔つきとかはいかつくて、雰囲気あっただけに残念です。